激しいトレーニングによって選手に生じるリスクは、プレイ中の怪我だけだと思っていませんか?
沢山トレーニングをして身体を強くし、体力を向上させ、怪我にさえ注意を払っていれば選手は健康にプレーできると、信じていませんか?
実は、激しいトレーニングは、選手を”病気”にかかりやすくさせるという研究結果があるのです。
今日は皆さんにきっと役に立つ、トレーニングと病気の関係について紹介していきたいと思います!
最後には、病気を予防するためのアスリートの心得についても紹介していきます!
それでは早速始めていきましょう
『100年も前からスポーツ選手の病気のリスクが心配されていた...』
トレーニングによって身体が受ける負荷は、筋肉や骨、腱などの身体能力に関わる組織だけに影響を与えるわけではありません。
人間の健康を支えてくれている、免疫系にもストレスを与えるのです。
これによって、風邪などの病気にかかりやすくなるリスクがトレーニングには存在しています。
人間の免疫システムは非常に複雑です。
人間は、皮膚、骨、血液、粘膜、リンパ...などの数百種類の細胞によって構成されています。
これらの中でも、白血球に代表されるような免疫細胞は様々な【身体の危険】を認識し、正常で害のない細菌と、有害な細菌を判別しています。
そして、それらの有害な細菌を攻撃し、健康状態を維持するように働いてくれています。
これが人間に生来備わっている防御システムになります。
ただ、そんな免疫系は、運動やトレーニングによる負荷に、非常に影響を受けやすいと言われています。
運動免疫学者のデイビット・ニーマン博士はこのように説明してくれました。
『1902年ボストンマラソンに参加したランナーに関する研究で、運動は、白血球に変化をもたらし、さらには特定の病気の症状にも影響を与えることがわかりました。更に、1980年代の研究では、激しい運動が一時的な免疫機能障害、炎症性バイオマーカーの上昇、上部呼吸道感染症(いわゆる「風邪」)のリスク増加と関係していることが証明されました。』
運動と「風邪」に関するデータをさらに紹介すると最大心拍数の60%に当たる運動を30-60分程度行っている人はまったく運動をしない人に比べて「風邪」にかかるリスクが低くなることがわかっています。
一方で、それよりも激しい運動をすると「風邪」のリスクが上昇します。これらのことをまとめると、運動による負荷と「風邪」のリスクの関係性は、以下のようなJ字曲線を描くことがわかってきました。
『続々とわかる、運動と病気リスクの関連性』
これまで、激しい運動による免疫機能の低下と、「風邪」のリスク増加の関連性についての研究では、その多くが持久系競技に取り組むアスリートやオリンピック競技者を対象に行われてきました。
他の研究データとしても、例えばIOC(国際オリンピック委員会)では
・トップレベルのアスリートの2%~18%、大会中に病気(その半分は「風邪」)を経験したことがある
・特に女性アスリート、持久系アスリートの割合が高い
と言っています。
アスリート全般に関して言えば、ドイツのある研究が
・「風邪」のリスクは持久系アスリートに最も高くみられた
・睡眠不足やストレスを抱えていると、更にリスクが高まった
と報告しています。
これらの研究の多くは、持久系のアスリートを対象としていました。
現在では、サッカー、ラグビー、ラクロスなど、屋外の広いフィールドで行われるスポーツを対象にトレーニングの負荷計測とあわせて、こういった研究が行われ始めています。
ただ、現在のところ上記のような研究で、運動と病気の関連性をはっきりを示す研究は発表されていないのが現状です。
現在の研究では、トレーニングの負荷を計測する指標として、GPSでのトラッキングデータやRPE(自覚的運動強度)のモニタリングを使い、怪我のリスクに関して調べているものが多く病気との関連性についての明確な研究データは、もう少し待つ必要がありそうです。
『誰でも出来る、アスリートのための病気予防のガイドライン』
ここまでは、運動と病気のリスクの関連性に関する研究やデータを見てきました。
もちろん、病気になるリスクに関しては、トレーニングによる影響だけでなく睡眠不足や
栄養不足により回復が十分でないことや、日常生活で受けるストレスから影響を受けることもあるでしょう。
それでもやはり、
・食事と睡眠によりしっかりと身体の回復をはかること
・精神的にリラックスできる時間をつくり、ストレスを軽減すること(例:ヨガや瞑想など)
・トレーニングの負荷を観察し、過剰になりすぎないよう管理すること
を通じて、怪我だけでなく病気のリスクも低減できそうだといえるでしょう。
それでは最後に、チームスポーツに関わる多くのアスリートにむけて病気のリスクを減らすためのガイドラインを紹介します。
1, 良好な衛生状態を保つ(手洗いうがい、他者と飲み物を共有しない、など)
2, 睡眠、栄養、水分補給、およびストレス軽減のための時間を作り、十分な回復を図る(個別のトレーニング×回復のプラン作成)
3, トレーニングの負荷は少しずつ増加させる(通常は、前週に対する増加率が10%以下になるように心がける)
4, 過度なオーバートレーニングや病気の初期兆候には気を配る
5, 病気に感染したアスリートには可能な限り近づかない(かかってしまったら、周りにうつさない)
6, 病気時、または初期症状があるときは、集中的なトレーニングを避ける
7, 復帰後は、徐々にトレーニングに戻る(急に戻ると負荷が高く免疫系に再び影響を与えるため)
これは、どれも特別な道具や設備のいらない、多くの方が実践できる内容だと思いますのでぜひ皆さんも心がけてみてはいかがでしょうか?
『さいごに...』
今回はここまでになりますいかがでしたでしょうか?
過度なトレーニングが怪我のリスクにつながるのは想像しやすいですが病気にまで繋がってしまうというのは、皆さんもリスクの再発見になったのではないでしょうか?
通常の健康管理に加えて、GPSデバイスやRPEによる負荷管理を通じて怪我や病気のリスクを少なくし、目一杯パフォーマンス向上に取り組めるようにしていきましょう!
『筆者 Daisuke Matsuuraについて 』
関西大学大学院卒。オーストラリア、ニュージーランドでラグビーコーチング、分析等を学び、現在はニュージーランドと日本でラグビーコーチ/アナリストとして活動中。コーチとして、ラグビーワールドカップの優勝を目指している。今後は、ヨーロッパやアルゼンチンへ活動を拡げようと計画中。言葉、映像、環境を操り、人との繋がりを大切にして、選手のパフォーマンス向上とチームの勝利を目指しています。
SNSにて、最先端のラグビーコーチ、アナリストとしての活動内容を日々投稿中!!
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